それでも世界は自由を選ぶ

それでも世界は自由を選ぶ

2022-03-05

アイキャッチ画像は有名なドラクロワの「民衆を導く自由の女神」。ここでは、アメリカの自由の女神を掲げる気にはなれませんので、フランス革命を描いたというドラクロワの女神にご登場願いました。絵の詳しい解説はこちら

ロシアのウクライナ侵攻は、原発まで攻撃するという超異常なレベルにまで昂進しています。原発本体には被害はなく、放射線量の値にも変化はなかったとはいえ、恐ろしいの一言。しかしこの問題の背後事情は非常に複雑怪奇。タイトルの「それでも世界は自由を選ぶ」、単独では意味が完結しない奇妙なものですが、複雑な背後事情を含意したタイトル名です。

ロシア侵攻による米国への贈り物

前号侵略者ロシアの言い分では、ロシアの言い分もご紹介しながらウクライナ戦争勃発に至る背景を考察してきましたが、本号ではこの背後事情にさらに接近して、その複雑怪奇な事態の流れを追ってみたいと思います。

前号ではバイデン大統領は自ら露払い役を務め、まるでロシアのウクライナ攻撃を先導するかのように振る舞っていたことに触れましたが、バイデン大統領のその真意についてまでは、具体的には踏み込みませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻によって、バイデン大統領は何を得たのか。誰もが抱く疑問です。その答えとなる記事を以下にご紹介します。
なぜアメリカは「ロシアがウクライナを侵攻してくれないと困る」のか
遠藤誉  中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2/20(日 Yahoo

合わせて、同じ遠藤氏の以下の論評記事もご覧ください。
バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛
遠藤誉 2/25(金) Yohoo

この遠藤氏の二つの記事を読むと、バイデン大統領はウクライナを使って、きわめて露骨にロシアに対する挑発行為を重ねていたことが分かります。

1.9月20日、NATOを中心とした15ヵ国6000人の多国籍軍によるウクライナとの軍事演習を展開した。このウクライナとの演習は1996年から始まっているが、開始以来、最大規模の演習

2.10月23日、バイデンはウクライナに180基の対戦車ミサイルシステム(シャベリン)を配備。

 このミサイルはオバマ政権のときに副大統領だったバイデンが、ロシアのクリミア併合を受けてウクライナに提供しようと提案したものだ。しかしオバマはそれを一言の下に却下した。「そのようなことをしたらプーチンを刺激して、プーチンがさらに攻撃的になる」というのが却下した理由だった。

3.12月7日、バイデンは強引にプーチンとの会談を持ち掛け、会談後に、米軍をウクライナ国内に派遣してロシアの軍事侵攻を阻むことについて、「検討していない」と否定的な考えを示した。(1~3の付番は引用者による。

ウクライナも参加させてNATOを中心とした15カ国もの、大多国籍軍による大規模な軍事演習を実施していながら、ロシアがウクライナに軍事侵攻しても米軍は阻止する考えはないと表明するとは、呆れ果てて言葉もありません。

しかし予定通りロシアがウクライナに侵攻してくれた結果、バイデン大統領には以下のような多大な収穫がもたらされたという。上記の遠藤氏の記事をもとにまとめました。

  • 米軍がアフガン撤退の際に失った信用を取り戻し、NATOの結束回復に大成功。
  • アメリカの軍事産業を潤すことにも成功。
    ロシアの侵攻後は、ウクライナに配備された180基の対戦車ミサイルシステム(シャベリン)を使って、米兵を派遣せずに、ウクライナ兵が時に血を流しながら、ロシア軍と戦っています。2,3日前、バイデン大統領は、ウクライナに対し、さらにミサイルを増強することを発表しています。軍需産業も久々の特需に喜んでいるはず。
  • 欧州向けの、アメリカの液化天然ガス輸出量を増加させ、アメリカ経済を潤して、秋の中間選挙に有利な体勢を整えることにも成功。
    ロシア侵攻後すぐさま、ドイツをはじめEUへのロシア産LNGの輸入が禁止されましたが、その穴をアメリカが狙うとは余りにも露骨すぎませんか。EUへの輸出でガス料金が値上がりしたとのことで、アメリカ国内でも輸出批判が高まっているとのニュースがありましたので、本格的な輸出にはならないだろうと考えていましたが、ロシア侵攻後は、アメリカ産LNGのEUへの輸入は一気に4倍にまで上昇したという。
  • バイデン大統領のご子息の不正疑惑再燃を回避する。
    ウクライナ政府を完全にコントロールすることで、我が身にかかりそうな火の粉を事前に消そうということなのでしょう。

ご子息絡みの最後の目的については、達したかどうかは現時点では不明ですが、ロシアの軍事侵攻のお陰で、アメリカは直接戦火を交えずして多大な戦利品を手にしました。

また、ロシアの軍事侵攻は、オリンピック終了後であったとはいえ、パラリンピック開始に重なるかのようなタイミングでした。その煽りを受けてロシアとベラルーシの選手の参加は禁止されました。中国の面目もつぶれましたし、報道もロシア侵攻一色。選手たちの活躍の様子を伝える報道も片隅に追いやられた感じです。

ロシアの非道さがひときわ目につきますが、思えば、2,014年2月7日から23日までロシアのソチで開催された第22回冬季オリンピック会期中は、親露派のヤヌコビッチ大統領を追放するための、アメリカ政府によるウクライナ革命が進行していました。

オリンピック会期中ゆえ、プーチン大統領といえども、手も足も出せない状況下での「革命」でした。しかしプーチン大統領はその恨みを晴らすかのように、オリンピック終了後には、即効的にクリミアに侵攻して併合してしまいました。

前号では、時期的には韓国製欠陥列車隠しも「革命」の目的あったと書きましたが、今回同様、一石多鳥、一つの謀略で多数の収穫を得る狙いであったと思われます。

日本(おそらくは欧米も)のマスコミ報道では、非常に偏った情報しか流されません。ちなみに、このウクライナ戦争の内幕を暴いた遠藤誉氏の記事は、これまでNewsWeekに転載されていたそうですが、突如担当編集者が退職して、同誌には転載されなくなったという。とても偶然だとは思えません。

なお、米国系のオンライン雑誌にも米国に都合の悪い記事も掲載されている例もあります。
「むしろ米国にとって好都合」バイデン大統領がウクライナを助けない本当の理由 侵攻を煽ったと言われても仕方ない
PRESIDENT Online 立澤 賢一 元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授

ウクライナの亡国的政治

ウクライナの内情についてもほとんど知らされていませんが、「SPA!」に、ウクライナ人著者によるウクライナの恐るべき亡国的実態記事が掲載されています。

ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー  日刊SPA! 2022/03/03(2019/6/21刊『ウクライナ人だから気づいた 日本の危機』より)

1,991年、ソ連崩壊によりウクライナは独立しましたが、ソ連の重要な軍事拠点であったウクライナは、ソ連時代の強大な軍隊をそのまま引き継いだという。その規模は以下の通り。

兵士780万人、戦車6500輌、戦闘車両7000輌、大砲7200門、軍艦500隻、軍用機1100機

そして1240発の核弾頭と176発の大陸間弾道ミサイルという、当時世界第三位の規模の核兵器も保有していた。

しかしある意味当然のことながら、米ソ両国から核兵器の全面放棄を強制され、当時の「ウクライナの指導者達は外国の要求をすべて呑み、無条件に3年間ですべての核兵器を放棄するという決断を下してしまった」という。

「その見返りとして、『米英露はウクライナの領土的統一と国境の不可侵を保証する』という内容の議定書だけを発表した」そうですが、全く法的拘束力のない議定書など何の役にも立たないことはあらためて言うまでもありません。

しかし核兵器以外の通常兵器は、大規模軍隊を維持する予算がないという理由で、ウクライナ政府自らの判断で次々と廃棄されたり、他国に売却されたりと、常態化していた経済的窮乏回避が最優先されたという。ウクライナの兵器は注文も多く、よく売れたという。

古い兵器の売却のみならず、国営の軍需工場では戦車も何百輌も製造して輸出していたという。しかし新旧の兵器まで輸出して得た利益は、国や軍隊の刷新強化などには使われず、政治家のみならず、軍隊にまで蔓延していた腐敗が、そうした利益までをも私的に呑み込んでしまったという。 

ウクライナは欧州では1,2を争うほどの最貧国だったそうですが、国を守り、国民を守るべき指導者たちの腐敗堕落が、この惨状を招いたと思われますが、米ロ両国は、この弱体化したウクライナを、さらに自国に都合のいいように利用しようとしてきたのではないかと思います。

政治家たちも、親露派、親欧米派ともに、両大国に貼りついて我が身の安全だけを考えてきたのだろうと思います。政治家は誰も、自国の発展などまともに考えてこなかったのではないか。侵略者ロシアの言い分でもご紹介したように、その能力がありながら、自国で高速列車を作らずに、韓国から欠陥列車を購入したのもその一例。

ただ、現在のウクライナは、ロシアによる狂気じみた攻撃に晒されており、世界中がロシアのウクライナからの撃退を願っており、応援していますが、ウクライナの指導者たちは、自力での富国強兵などほとんど考えてこなかったという独立後の歴史についても真摯に反省すべきではないかと思います。

現在のウクライナにとって最も必要なことは、米露いずれからも独立して、自力で国を守り、国を再興することだろうと思います。

このロシア侵攻報道がきっかけで、楽天はIT業務の拠点の一つをウクライナに置いていたことを初めて知りましたが、日本企業とそんな近しい関係もあったのかと驚いています。三木谷会長はウクライナに対して、個人で10億円寄付されるという。

ウクライナ政府は、おそらくソ連時代から続く悪弊だったと思われますが、政治の腐敗を一掃し、さらなる人材育成を図るととともに、新しい産業の創出にも力を入れて、大国に依存せずとも自立しうる国作りに邁進すべきだと思います。

しかしこの目標を達成するためには、今なお続く容赦のないロシアの攻撃に反撃し、この侵略者を撃退する必要がありますが、原発まで制圧された現在、この戦争の誘導者であるバイデン大統領は、その身を呈してロシアを撃退し、ウクライナを守る責任があるのではないですか。ウクライナだけに任せて、兵器だけを送り込むとは余りにも無責任ではありませんか。ウクライナはアメリカ産兵器の消費場ではありません。

今世界は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、その内実はさておき、自由主義体制と独裁体制という、二つの体制の相克が今なお続いていることをあらためて思い知らされています。世界はどちらの体制を選ぶのでしょうか。「それでも世界は自由を選ぶ」、これ以外の選択はないはずです。

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なお、twitterのアカウント名(太字で表示される名前)を「葦の葉ブログ」から個人名「久本福子」に変更しました。ユーザー名@ashishoboも一気に変えようかと思いましたが、URLも変わりますし、別人と思われても困りますのでこちらはそのままです。facebookはかなり前から個人名発信ですが、不特定多数向けのtwitterでは認知していただけないと思い、個人名は避けてきましたが、なりすまし防止の意味もあり両者統一しました。(3/6)

記事・画像:久本福子

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