「葦の葉ブログ2nd」より転載
コロナや五輪報道の陰に隠れて余り目立ちませんが、3月19日にルネサスエレクトロニクス(茨城県ひたちなか市)の那珂工場で火災が発生し、車載用半導体の生産停止を余儀なくされています。昨年10月には旭化成の宮崎県延岡市にある半導体工場がでも火災が発生しました。しかも海外でもほぼ同時期に半導体工場で「災害」に見舞われ、半導体の生産停止を余儀なくされるという不可解な事態になっています。
1. 相次ぐ半導体工場の火災
ルネサスの火災は、過電流が発生したことまでは把握されているようですが、なぜ過電流が発生したのかという根本原因は未だ不明です。しかも不可解なことには、火災発生時には落ちるはずのブレーカーが作動しなかったという。詳細は以下の記事をご覧ください。
ITmedia ルネサス火災の真相は? セキュリティ関係者が疑っている「こと」 2021年03月25日
上記の記事は放火を疑う声もあることを紹介していますが、その放火犯は、日本の技術を欲しがっている中国人ではないかとの匿名者による推測を紹介しています。放火の疑いは濃厚だとはいえ、中国人ではないかとの推測はおそらくはずれだろうと思います。
とはいえこの火災が余りにも不自然だと思うのは、昨年10月には宮崎県延岡市にある旭化成の半導体工場でも火災が発生したからです。こちらも原因不明のまま、今なお生産停止中で復旧の目途も立っていませんが、同社は車載用半導体の生産をルネサスに委託しました。詳細は風吹けば桶屋が儲かる でご報告しておりますので、未読の方は是非ともご覧ください。
旭化成の依頼を受けて、ルネサス、半導体を代替生産へ 旭化成火災で供給停滞 秋田魁新報 2021年1月27日
上記の記事にありますようにルネサスは、那珂工場で旭化成の車載用半導体の代替生産の準備を進めていましたが、その委託先のルネサスの、まさに代替先の工場でも火災が発生! これはとても偶然だとはいえません。
スマホ全盛時代は、ルネサスは韓国企業にボロ負けで赤字垂れ流しだとのニュースが頻繁に報道されいて、ルネサス=赤字企業との印象ばかりが刷り込まれていましたが、世界的にみても非常に優秀な半導体を生産していることを、火災記事で久々に目にしたルネサス関連記事で知ったばかりで驚いています。
昨今の車は走るコンピュータと言われて久しいですが、旭化成やルネサスなどの日本の半導体メーカーは車載用半導体生産ではトッププレイヤーだとのこと。しかも車載用半導体は人命に直結するので、スマホ用半導体以上に厳しい基準があり簡単には代替できないとのことですが、旭化成の生産停止分の代替生産も引き受けたルネサスの那珂工場は、同社の主力の生産ラインだという。ちなみに「ルネサスは自動車の走行を制御するマイコンの世界首位で約2割のシェアを握る」とのこと。
台湾のTSMCなど外部のファウンドリー(受託生産会社)への生産委託が進んでいるとはいえ、火災があった工場はルネサスにとって主力の生産ラインだ。このラインで製造する製品は月商170億円規模。ルネサス全体の売り上げの3割弱に相当する。このうち66%が車載向けで、エンジン制御などに使うマイコンのほか、安全運転支援システム関連の半導体を多く作っている。(ルネサス、工場火災で半導体不足に拍車の深刻 東洋経済)
さらに驚いたことには、委託先のTSMC(台湾)では干ばつに襲われて極度の水不足に陥り、大量の水を使う半導体生産が停止に追い込まれる恐れがあるという。
台湾が過去50年で最悪の水不足による緊急事態に。世界最大の半導体生産が停滞に陥る可能性も。総統は「人工降雨作戦」にも言及 地球の記録 2021年3月9日
TSMCは世界最大規模を誇る半導体メーカーですが、そのTSMCは水不足に見舞われて生産停止の危機に瀕しているという。半導体工場を次々と襲う非常事態。単なる偶然だといえるでしょうか。台湾の水不足は、「台湾では昨年、降水量が大きく落ち込んだ。2020年に台風の上陸がなかったことも水不足に拍車を掛けている。」(bloomberg 台湾の水不足深刻化、非常警報も発令-TSMCはタンクローリー活用)からだという。
昨年の天候が今年の半導体不足を加速することになったのは結果にすぎず、これこそ偶然だとの批判が出てきそうですが、昨今の異常気象そのものが天然自然の域を超えたものであることは明らかです。
実は今年の2月半ば過ぎ、異常寒波に見舞われたアメリカでも、車載用半導体メーカー工場(オランダのNXPセミコンダクター、ドイツのInfineon テクノロジー)が生産停止に追い込まれていました。アメリカ全土が異常寒波に見舞われましたが、半導体生産の拠点の最大拠点であるテキサス州では、異常寒波で火力、水力、風力などすべてが凍結して電力供給が停止、加えて送電網も損傷、長期に渡って停電が続きました。
参照:壊れたアメリカの気温と降雪量。テキサス州では1400万人が飲料水を失い、アーカンソー州では「1週間で6年分の雪」が降る 地球の記録 2021年2月20日
参照:テキサス寒波大災害で露呈したDIY思想の落とし穴 wedge 2021/3/8 ( *DIY=Do It Yourself)
参照:テキサス大停電とその影響 化学業界の話題 2021/3/20
復旧が遅れたのは、共和党の地盤であるテキサス州では、米国内でも行政の関与を極力排除する「小さな政府」推進州の代表格であり、基本的には全て民にお任せという州政府の姿勢が、非常事態への対応にも影響したとも言われています。加えて電力の民営化、自由化が進んだ結果、多数の電力会社が分立し、非常事態への対応もどこが責任をもつべきかが曖昧で、以前から電力供給に問題が発生しても放置されてきたことも、今回の異常寒波による非常事態を長引かせた原因だという。
ちなみに電気代も市場にお任せのテキサス州では、寒波襲来で電力料金も急騰。「2月16日(米国時間)には、電力不足によって、1MW(メガワット)/hr当たりの電気代が9000米ドルを超えた。その前の週には、最も低い料金で30米ドル以下だった。」という。何と何と、たった1週間で300倍にまで急騰!
この寒波ではテキサスでは水道管の破裂も多発したそうですが、DIYを州是のごとく推進しているテキサス州においてすら、水道の民営化だけは禁じているという。水は命に即直結するからでしょう。 しかし日本では、安倍政権、菅政権ともに水道の民営化まで推進中。アメリカ流を目指す日本政府は、そのアメリカの事例をとことん研究すべきですよ。まさにこれこそ「他山の石」!
と話は、本題からはややずれてしまいましたが、テキサス州の大寒波では、上記テキサス大停電とその影響にもあるように日本の化学メーカーも生産停止に追い込まれましたが、サムスンの半導体工場も生産停止を余儀なくされました。サムスンは同工場では「Qualcommの通信用半導体のほか、自社の有機ELパネルやイメージセンサーの駆動用半導体などを手掛け」ていたという。つまりサムスンは、同工場ではスマホ向けの半導体や有機ELパネルなどを生産していたということです。
現在、スマホ用半導体と車載用半導体では、どちらがより需要が逼迫しているか、あるいは今後どちらの需要が急増するかといえば、言うまでもなく車載用です。スマホも5G全開時代になれば5G用スマホの新需要が生まれるはずですが、5G特許の大半を握っているファーウェイなどの中国企業を排除した中では、急激な進展は望めそうもありません。
参照:5G用通信半導体がボトルネックになる時代 EE Times 湯之上隆 2019年05月13日
数週間前、Appleのティム・クックCEOと中国で有名なインフルエンサーとのオンライン対談が公開されていました。ティム・クックが22歳の中国の学生に与えた人生のアドバイス Forbs Japan ティム・クックCEOはにこやかに彼と対談しながら、中国の5G技術は世界的にみてもかなり進んでいると話していました。
世界の大AppleのCEOがファーウェイのCEOに対してではなく、中国国外では全く無名の若いインフルエンサーを相手に、中国の5G技術の先進性について率直に語っているのを見て心底驚きました。現在はアメリカ企業に限らず、世界のどこの企業にとっても、中国企業を相手に提携話を持ち出せる状況ではないことは改めて言うまでもありません。ティム・クックCEOもそれゆえに、中国国内では有名とはいえ、世界的にはまったく無名の若いインフルエンサーを相手に率直に5Gの話をしたのだろうと思います。
上記の湯之上氏によれば、上記記事執筆時点では、5Gの半導体を作ることができるのはファーウェイとQualcomm(米)の2社のみだという。その後、今年の年明けには台湾のメディアテックが5G用半導体を新開発。
メディアテック、5Gスマホ用新半導体 クアルコムに対抗 2021/1/21 日経新聞
とはいえ、国内外ではすでに5G用スマホも多数生産されており、5G用基地局も一部とはいえ設置が進んでいます。ファーウェイの製品は排除されていても、同社の特許技術の利用については米国政府も利用は禁じていないので、各国企業とも5Gに不可欠な技術は特許料を払って利用しているか、あるいは同社の技術を参考にしながら代替技術を開発しているのかもしれません。
2. 台湾TSMCと日本
ここで一つの表をご紹介します。
特集:半導体セクターの重要トピックス(半導体不足が日本企業へ与える影響。インテルの新たな成長戦略) トウシル・楽天証券 2021/3/26
上記記事に紹介されていたものですが、半導体ファウンドリー上位5社のランキングです。
TSMCとUMCは台湾、グローバルファウンドリーは米国、SMICは中国の企業。サムスンは2位ですが、1位のTSMCの3分の1弱とかなり水を開けられています。日本では長らく、半導体シェアではサムスンが世界一だと報道されてきていましたので、わたしはこのランキングを見て非常に驚きました。
サムスンは2位、しかも1位のTSMCとの差が非常に大きい。1位と3位のTSMCとUMCの台湾2企業と比較するならば、韓国企業(サムスン)の市場シェアはさらに下がります。しかも半導体のキモでもある微細化競争でも、TSMCが一歩も二歩も先を行ってるという。となると、サムスンとしては新たな半導体需要の取り込みに向けた、体制強化が急務となっているはずです。
新たな半導体需要となると、スマホ以上に車載用半導体であることは明らかです。車載用半導体はスマホよりも数も多く、複雑で高度な機能を要求されますので、スマホ用半導体で世界一の座を占めたサムスンにとっても、新規参入はそう簡単ではないはずです。
もしも車載用半導体で実績のあるメーカーから技術移転がなされるならば、サムスンにとってはこれ以上の望みはないはずです。かつてサムスンは、自力では半導体の生産ができず、政府の力を借りて日本から無償で技術移転をしてもらいました。日本の企業に直接働きかけたのでは100%ありえぬ、虫の良すぎる政府間交渉で実現したわけですが、半導体の重要性を理解できなかった日本の政治家の無知蒙昧が、全くの見返りなし(従軍慰安婦や徴用工問題の完全なる解決との交換すらなし)の贈与を実現してしまったわけです。
しかし日本の政治家も多少は学んだようですので、いくら慰安婦問題や徴用工でしつこく日本を批判し続けても、同じ展開にはなりえません。ではどうなったのでしょうか。
ここで冒頭付近でご紹介したルネサス火災の真相は? セキュリティ関係者が疑っている「こと」をもう一度読むことにいたしましょう。非常に興味深いエピソードが紹介されています。
ある経済安全保障に携わる政府の関係者が以前筆者に語っていた話だ。「今の時代、先端技術をもつ工場などはかなり警戒しておく必要がありますよ。以前、とある国の企業から技術提供を持ちかけられた日本のテクノロジー系会社がその提案を断ったんですが、そのすぐ後に工場が何者かに放火されたことがあった。もちろん、その企業が関与しているかどうかは分かりません」(山田敏弘 ルネサス火災の真相は? セキュリティ関係者が疑っている「こと」)
著者の山田氏は、上記の話の真偽は不明だとしながらも、この放火事件にルネサス火災を重ねながら、ありうるとしたら、日本の技術を欲しがっている中国ではないかとの推測を立てており、韓国の「カ」の字も登場しません。しかし中国が半導体関連技術で狙うとしたら日本よりも台湾でしょう。優秀であるだけに、中国は武力行使も辞さず、強引に台湾進攻するはずです。
しかし現在の中国にとって喫緊の最重要課題は、アメリカによる制裁の解除ないしは緩和、それ以外にはないはずです。それに半導体はどこであれ、100%自国内では完結できないはず。一部ではあれアメリカ産の特許技術も不可欠のはずで、アメリカ政府の制裁下では、仮に中国が日本から技術を盗んだとしても生産はできないはずです。
ということで、仮にルネサス火災が放火であったと仮定しても、中国の関与はありえないはず。では韓国か。半導体というキーアイテムと事態の流れに沿うならば、韓国以外には候補となりうる国や企業はありえませんね。旭化成が燃え、ルネサスまでもが燃えたとなれば、日本国内では代々替工場はなし。残るは海外企業ですが、頼み綱の台湾は干ばつ襲来。となると韓国しか残らないということになります。
今まさにそういう状況ですが、日本企業は韓国に技術移転をして代々替生産を依頼するという選択をせずに、生産停止を選択しているようです。簡単には技術移転はできないという側面もあるのかもしれませんが、非常に賢明な選択です。
ちなみにルネサスは、
コネクテッドカー開発分野でマイクロソフトと協業を開始 Myナビ 2021/01/12
とありますように、自動車とネットワークとをつなぐプラットフォーマーとしての壮大な事業展開にも踏み出したところでした。コネクテッドカーとは、「ICTが拓く未来社会・総務省」をご覧ください。
この後さらに続く予定ですが、1週間ほど執筆する時間が取れそうもありませんので、ここで一旦中断いたします。中断の前に一言付け加えておきますと、わたしがご紹介しました参照サイトは日経新聞以外は全てWEBメディアばかりです。つまり、日本と日本国民の安全を脅かす非常に危険な事態、事故、事件であるにもかかわらず、NHKも含めて一般マスコミはほとんど報道していないということを最後に強調して、一旦中断いたします。
ルネサスの火災についても日本のマスコミでは余り大きな報道にはなっていませんが、BBCが非常に生々しい写真を多数掲載して報道しています。
茨城の半導体工場火災 国内外の自動車生産への影響は BBC 2021年3月24日
また、半導体生産に必要な部品や素材では、以下にありますように日本メーカーは世界の市場をほぼ独占しています。これも日本のマスコミはほとんど報道しませんので、中断前にご紹介しておきます。
ひと目で分かる日本メーカーの世界シェア SEMI(日本の半導体部品や素材メーカーによるサイト)
(続く)